AIレッドチーミングとは?生成AIの攻撃検証の進め方と体制を解説

AIレッドチーミングとは?生成AIの攻撃検証の進め方と体制を解説
図解:従来のセキュリティ診断とAIレッドチーミングの違い
従来のセキュリティ診断
  • 対象はネットワーク・Webアプリの既知の脆弱性
  • 入力と出力が決定的で再現しやすい
  • CVEなど既知の脆弱性カタログで網羅性を確認
  • 合否判定が比較的明確
AIレッドチーミング
  • 対象はLLMの振る舞い・出力内容・連携先ツール
  • 同じ入力でも出力が揺らぎ、確率的に評価する
  • 自然言語による攻撃(プロンプトインジェクション等)が中心
  • 有害性・正確性など文脈依存の判定が必要
図解:AIレッドチーミングで検証すべきリスクの4層
入力層:プロンプトインジェクション直接・間接の指示注入で、システムプロンプトやガードレールが回避されないか
データ層:情報漏洩RAGの参照文書や個人情報、システムプロンプトが外部に出力されないか
出力層:有害・不正確な出力差別的表現、違法行為の助長、ハルシネーションによる誤情報が出ないか
実行層:AIエージェントの過剰な権限ツール連携やMCP経由で、意図しない操作・送信が実行されないか
図解:AIレッドチーミングの5ステップ
  1. 1. 計画対象システム、範囲、体制、許容できないリスクの判定基準を明文化する
  2. 2. 攻撃シナリオ作成OWASP Top 10 for LLMやMITRE ATLASを参照し攻撃パターンを洗い出す
  3. 3. 実行手動の攻撃と自動ツールを併用し、入出力ログを全件記録する
  4. 4. 評価成功した攻撃を深刻度と再現率で分類し、優先順位を付ける
  5. 5. 報告・改善ガードレールやプロンプトを修正し、同じシナリオで再テストする

AIレッドチーミングとは?従来のセキュリティ診断との違いは?

AIレッドチーミングは、攻撃者の視点で生成AIを意図的に誤動作させ、出力や挙動のリスクを洗い出す検証活動です。

従来のレッドチーミングは、ネットワークやアプリケーションへの侵入を試す演習でした。AIレッドチーミングはその考え方を生成AIやLLM(大規模言語モデル)に広げたものです。経済産業省・総務省の「AI事業者ガイドライン」(2024年4月公表)は、AI開発者や提供者にリスクの洗い出しと対策を求めています。その流れを受けて、日本のAIセーフティ・インスティテュート(J-AISI)は2024年9月に「AIセーフティに関するレッドチーミング手法ガイド」を公開しました。国内でも、検証手法として位置づけが明確になりつつあります。

AIレッドチーミングの定義と目的は?

目的は脆弱性の発見だけではありません。有害な出力や情報漏えい、誤情報など社会的なリスクも対象にします。

米国NISTの「AI RMF(AI 100-1)」や、生成AI向けの「Generative AI Profile(NIST AI 600-1、2024年7月)」でも、敵対的テストはリスク測定(Measure)の手段として扱われています。目的は大きく3つに整理できます。

  1. 安全性の確認:差別的・暴力的な出力や違法行為の助長が起きないか
  2. セキュリティの確認:プロンプトインジェクションや機密情報の漏えいが起きないか
  3. 信頼性の確認:もっともらしい誤情報(ハルシネーション)が業務判断を誤らせないか

従来のペネトレーションテストと何が違うのか?

最大の違いは「入力が自然言語で、出力が確率的に変わる」点です。同じ攻撃でも再現しないことがあります。

観点 従来のセキュリティ診断(ペネトレーションテスト等) AIレッドチーミング
主な対象 ネットワーク、OS、Webアプリ 生成AIモデル、プロンプト、RAG、AIエージェント
攻撃手段 既知の脆弱性、不正なリクエスト 自然言語による誘導、文脈の操作、外部文書への命令埋め込み
判定 侵入できたか(二値に近い) 出力が許容範囲か(グレーな判断を含む)
再現性 高い 低い(同じ入力でも出力が揺らぐ)
必要な知見 セキュリティ技術 セキュリティ+業務ドメイン+倫理・法務

現場の感覚では、「技術的に破れたか」より「この出力を顧客に見せてよいか」の判断で迷う場面のほうが多い印象です。検証にはセキュリティ担当者だけでなく、業務部門や法務の視点が欠かせません。

AIレッドチーミングで何を検証すべきか?

検証対象は、OWASP Top 10 for LLM Applicationsを土台にし、自社のユースケース固有のリスクを加えて決めます。

網羅的に見える項目リストでも、自社の利用形態に合わなければ工数の無駄になります。社内ナレッジ検索のRAGと、顧客対応のチャットボットでは、優先すべきリスクがまったく異なります。

代表的な攻撃・リスクの分類は?

OWASPが公開する「Top 10 for LLM Applications 2025」を使うと、検証観点を漏れなく洗い出せます。

分類(OWASP 2025) 内容 検証例
LLM01 プロンプトインジェクション 入力で指示を上書きし、意図しない動作をさせる 「これまでの指示を無視して」系の入力、Webページやメールに命令を埋め込む間接型
LLM02 機密情報の漏えい 学習データや連携データの機密が出力される 他部署の文書や個人情報を引き出す質問
LLM05 不適切な出力処理 出力を検証せず後段のシステムに渡す 出力に含まれるスクリプトやSQLが実行されないか
LLM06 過剰なエージェンシー AIエージェントに過大な権限がある メール送信やファイル削除を誘導できるか
LLM07 システムプロンプトの漏えい 内部の指示や設定が露出する 「あなたの設定を教えて」系の入力
LLM08 ベクトルと埋め込みの弱点 RAGの検索基盤を経由した漏えいや汚染 権限外文書が検索結果に混ざらないか
LLM09 誤情報 もっともらしい誤りの出力 社内規程や料金を誤って回答しないか

このほか、攻撃手法の体系としてはMITRE ATLASも参考になります。サプライチェーン(LLM03)、データ・モデルポイズニング(LLM04)、無制限なリソース消費(LLM10)も、モデルを自社で追加学習する場合や、従量課金のAPIを公開する場合には優先度が上がります。

ユースケース別に優先度をどう決めるか?

「誰が使うか」と「AIが何をできるか」の2軸で優先度を決めると、限られた工数を重要リスクに集中できます。

  • 社内向け・回答のみ(例:社内FAQボット):誤情報と権限外の情報漏えいを優先
  • 社外向け・回答のみ(例:顧客対応チャット):有害出力、ブランド毀損、システムプロンプト漏えいを追加
  • 社内向け・操作あり(例:業務を代行するAIエージェント):過剰なエージェンシーと間接プロンプトインジェクションを最優先
  • 社外向け・操作あり:上記すべて。リリース前に外部の専門家による検証も検討

実務では、AIエージェントにツール実行権限を渡した段階で、リスクの性質が変わると感じる担当者が多いようです。「誤った回答」が「誤った操作」になり、取り消せない影響が出るためです。

AIレッドチーミングはどう進めるのか?

計画、攻撃シナリオ作成、実行、評価、報告・改善の5段階で進めます。リリース前に1回実施して終わりではなく、継続的に回します。

J-AISIの手法ガイドも、実施計画の策定から結果の報告・改善までを一連のプロセスとして示しています。ここでは企業の実務に合わせて整理します。

実施の基本ステップは?

最初に「何が起きたら失敗か」という判定基準を決めることが、手戻りを防ぐ最大のポイントです。

ステップ 主な作業 成果物
1. 計画 対象システム、範囲、期間、体制、判定基準を定義 実施計画書、リスク判定基準
2. シナリオ作成 想定する攻撃者像と攻撃シナリオを設計 攻撃シナリオ一覧、テストプロンプト集
3. 実行 手動テストと自動ツールを組み合わせて攻撃 実行ログ(入力・出力・日時・モデルのバージョン)
4. 評価 判定基準に照らして深刻度を分類 指摘事項一覧(深刻度付き)
5. 報告・改善 対策を立案し、修正後に再テスト 報告書、対策計画、再テスト結果

ステップ3では、モデルのバージョンと設定値(temperatureなど)を必ず記録してください。出力が確率的に変わるため、条件が分からないと再現も修正確認もできません。

攻撃シナリオはどう設計するか?

攻撃者像を「悪意ある外部ユーザー」「好奇心のある社員」「改ざんされた外部文書」などに分けると、抜け漏れが減ります。

シナリオ設計で押さえたい観点は次のとおりです。

  1. 攻撃者の動機:情報窃取、業務妨害、ブランド毀損、いたずら
  2. 攻撃の経路:チャット入力、アップロードファイル、RAGが参照する文書、Webページ、メール
  3. 攻撃の手口:ロールプレイによる誘導、多言語や文字コードの切り替え、複数ターンにわたる段階的な誘導
  4. 被害の範囲:表示のみか、外部への送信や業務システムの更新まで及ぶか

単発の入力ではガードレールで止まっても、5〜10ターンかけて文脈を積み上げると突破できる、という報告は珍しくありません。数回試して問題なしと判断するのは危険です。複数ターンのシナリオを意識的に入れることをおすすめします。

社内で実施するための体制とツールは?

体制は「開発チームから独立した検証役」を置くことが基本です。手動検証と自動ツールの併用が現実的です。

開発者自身が検証すると、想定どおりの使い方に偏りがちです。レッドチーミングの価値は、開発者が想定しなかった使われ方を見つけることにあります。

どのような役割とスキルが必要か?

AIエンジニアとセキュリティ担当だけでは足りません。業務部門と法務・リスク管理部門の参加が成果を左右します。

役割 主な担当 求められる知見
責任者(オーナー) 範囲と判定基準の承認、リリース可否の判断 リスク管理、事業理解
AIエンジニア 攻撃の実行、自動ツールの運用、原因分析 LLM、RAG、プロンプト設計
セキュリティ担当 攻撃シナリオ設計、深刻度評価 脅威モデリング、脆弱性診断
業務部門メンバー 業務文脈での誤用・誤答の検出 現場の業務知識、顧客接点
法務・コンプライアンス 法令・規約違反リスクの判定 個人情報保護法、著作権、業界規制

最初から専任チームを作る必要はありません。AX推進室やCoE(Center of Excellence)が事務局となり、案件ごとに兼務メンバーを集める形でも十分に始められます。リスクの高い外部公開サービスに限っては、外部の専門ベンダーによる検証を組み合わせると客観性を確保しやすくなります。

活用できるツールは何か?

オープンソースの自動化ツールを使うと、大量の攻撃パターンを効率よく試せます。ただし手動検証の代わりにはなりません。

ツール 提供元 特徴
PyRIT Microsoft 攻撃の生成、送信、スコアリングを自動化するPythonフレームワーク。複数ターン攻撃に対応
garak NVIDIA(オープンソース) LLMの脆弱性スキャナー。プロンプトインジェクションやジェイルブレイクなどを網羅的に試験
promptfoo オープンソース プロンプトの評価とレッドチーミングをCI/CDに組み込みやすい

Microsoft Azure AI FoundryやGoogle Cloud Vertex AIなどのクラウド基盤にも、安全性評価やコンテンツフィルタの機能があります。利用中の基盤の機能から始めるのが手軽です。実務的には、自動ツールで既知パターンの回帰テストを回し、人手は業務固有のシナリオと複数ターンの誘導に集中させる分担が効率的です。

レッドチーミングの結果をどう活かすべきか?

結果は「深刻度別の対策」と「継続的な再検証の仕組み」に落とし込みます。そうして初めて投資効果が生まれます。

指摘事項を報告書にまとめて終わるケースは少なくありません。しかし生成AIはモデルの更新やプロンプトの修正で挙動が変わるため、一度の検証結果はすぐに古くなります。

指摘事項をどう優先順位づけし対策するか?

「影響の大きさ」と「攻撃の容易さ」で深刻度を分け、深刻度が高いものはリリース前の修正を必須にします。

深刻度 判定の目安 対応方針
重大 個人情報や機密の漏えい、外部への不正操作が容易に起きる リリース停止または機能制限。修正と再テストを必須とする
高 有害出力や重要業務での誤情報が、一定の工夫で起きる リリース前に修正。難しい場合は利用範囲を限定
中 特殊な誘導でのみ不適切な出力が起きる 対策計画を立て、次回更新で対応
低 影響が軽微、または再現がまれ 監視対象として記録

対策は一つに頼らず、多層で組み合わせるのが定石です。

  • 入力側:入力フィルタ、外部文書の無害化、プロンプトの構造化
  • モデル・設定側:システムプロンプトの見直し、ガードレールの設定
  • 出力側:出力フィルタ、後段システムに渡す前の検証
  • 権限側:AIエージェントの権限を最小化し、重要な操作の前に人間の承認を挟む(Human-in-the-Loop)

継続的な改善サイクルにどう組み込むか?

モデルの変更、プロンプトの修正、連携データの追加をきっかけに、自動の回帰テストと定期的な手動検証を回します。

  1. リリース前:本格的なレッドチーミングを実施し、リリース可否を判定
  2. 変更時:基盤モデルのバージョンアップやプロンプトの修正のたびに、自動ツールで回帰テスト
  3. 運用中:利用ログを監視し、新しい攻撃パターンをテストケースに追加
  4. 定期:半期や年次など社内で決めたサイクルで手動検証をやり直し、判定基準も見直す

EU AI Act(欧州AI規則)では、システミックリスクを持つ汎用AIモデルの提供者に敵対的テストの実施と文書化が求められます。国内でもAI事業者ガイドラインが継続的なリスク評価を求めています。規制対応の観点でも、検証の記録を残しておく価値は高まっています。

現場では「レッドチーミングはリリースを止める工程」と見られがちです。実際には、検証で安全性を説明できる状態を作ることが、経営層や顧客の承認を得る近道になる場面が多いと考えられます。AX推進のブレーキではなく、適用範囲を広げるための土台と位置づけて取り組むのがよいでしょう。

参考資料

  • AIセーフティ・インスティテュート(J-AISI)「AIセーフティに関するレッドチーミング手法ガイド」(2024年9月)
  • 経済産業省・総務省「AI事業者ガイドライン」(2024年4月)
  • NIST「AI Risk Management Framework(AI 100-1)」(2023年1月)、「Generative AI Profile(NIST AI 600-1)」(2024年7月)
  • OWASP「Top 10 for LLM Applications 2025」
  • MITRE「ATLAS」
  • 欧州連合「AI Act(Regulation (EU) 2024/1689)」

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よくある質問(FAQ)

AIレッドチーミングは外部ベンダーに委託すべきですか?
初回や高リスク用途では、攻撃手法に詳しい外部専門家の活用が有効です。一方で、モデル更新やプロンプト変更のたびに再検証が必要になるため、基本的なシナリオは社内で回せる体制を並行して整えるのが現実的です。
自社でLLMを開発していなくてもレッドチーミングは必要ですか?
必要です。OpenAIやAnthropicなどの基盤モデル側で安全対策が施されていても、自社のシステムプロンプト、RAGの参照データ、ツール連携の設計によって新たな脆弱性が生まれます。検証対象は自社のアプリケーション全体です。
どのタイミングで実施すべきですか?
本番リリース前に加え、基盤モデルの切り替え、システムプロンプトの大幅変更、新しいツール連携の追加など、振る舞いが変わる変更のたびに実施します。定期的な再検証をLLMOpsの運用サイクルに組み込むのが理想です。

参考・出典

本記事は、以下の公開情報にもとづいて編集部が作成し、監修者が事実確認を行っています。

執筆:VACAN Technologies編集部 / 公開 2026-10-13 / 更新 2026-10-13

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